◆大人向けシナリオサンプル「愛してると言わせて」 --------------------------------------------------------------------- ◆ストーリー ある日、彼氏に浮気をされ別れ、職場ではミスをして上司に叱られと、何も良い事がなかった楓は、ふと足を向けたアパレルショップで聖月悠斗と出会う。悠斗はショップの店員で、楓の服をコーデしてくれる。そのコーデのお陰で、楓は少し元気になる。 次に悠斗に会ったのは、別れた彼氏に絡まれている時。楓を助けようと悠斗は、楓の彼氏だと言い切る。 ---------------------------------------------------------------------- ◆キャラクター ・塩崎 楓(シオザキ カエデ)…イベント会社に勤める24歳。明るく元気だが、何故か男運がない。いつも短期間で別れてしまう。猫が好き。 ・望月 悠斗(モチヅキ ユウト)…アパレルショップの店員。27歳。女性のお客を輝かせるコーデをするのが趣味のようなもの。お兄さん系。 --------------------------------------------------------------------- <街並み> 【楓】 (もう今日は何て日!?) 私の心はどん底だった。 彼氏に浮気されて別れたり、仕事でミスをして叱られたりと全くの最悪の状態。ようやく仕事を終えて帰ろうと思っても、何か家に帰りたくない心境だ。 周りを見渡すと、寒い中カップルがラブラブしている姿が目に入る。 (ああ。良い出会いってないかなぁ……。何でいつもすぐに別れちゃうんだろう……) そんな時、ふと一件のアパレルショップが視界に入った。 <アパレルショップ> 【店員】 「いらっしゃいませ〜♪」 明るい女性の声で出迎えられる。 【店員】 「今日はどのような物をお探しですか?」 ニコニコと笑顔を絶やさない店員さん。 だが、私の心は沈んでいて、その笑顔に応える気力がなかった。 【???】 「これなんでどう?」 声の方を振り返ると、そこには長身の男性が笑顔で服を持っていた。栗色の髪が綺麗だ。 【楓】 「あ、すみません。ちょっと見てるだけですから」 押し売りされるのも嫌で、やんわり断り、私はその男性から離れる。 【???】 「店員の聖月悠斗だよ。無理に買わせる事はしないから、ちょっと耳を傾けてよ」 聖月さんはそう言うと軽くウインクする。おまけに投げキッスまで。 【楓】 「すみません、今そういう気分じゃないんで」 投げキッスをかわして言うと、ほーら、と聖月さんが私の目の前にレザージャケットをぶらつかせた。 袖口にあるファーが可愛い黒色のジャケットだ。 「……可愛い」 気が付くとそう口にしていた。 【悠斗】 「だろ? 着てみない? この悠斗さんに間違いはないって」 私は聖月さんに勧められるまま、ジャケットを羽織ってみた。 【楓】 (やばい……。この服、マジで可愛い) それに何だか心を包まれるみたいで温かい。 【悠斗】 「どう? 似合ってるでしょ? お嬢さん、そのジャケットが似合う可愛さを持ってるんだから、そんなに沈んでちゃ勿体ないよ?」 聖月さんが私の心を見透かすように言う。 私はどう答えて良いのか分からなかった。 【悠斗】 「……ちょっと前向きになった?」 【楓】 「え?」 【悠斗】 「女性は輝くべき! ってのが俺の持論なの。悩みあるんならいつでも聞くよ? ここで。ついでに似合う物を買ってくれると嬉しいけど、それはお嬢さん次第って事で」 ここまで胸を張って言われるのは恥ずかしい。でも嬉しかった。 【楓】 「じゃあ、これ頂きます」 ジャケットを聖月さんに手渡すと、二カッとした笑顔が返ってくる。 (何か、和むなぁ) 【悠斗】「まいど♪ そうだ。お嬢さんにおまけ」 そう言うや、聖月さんは可愛いドット柄のシュシュを袋に入れてくれた。 【楓】 「ふふ、サービスが良いんですね」 【悠斗】 「お嬢さんにだけだよ」 又してもウインクされ、私は照れてしまう。 【楓】 「聖月さん、私、塩崎楓よ。これからも通わせてもらうわね」 いつもだったら、こんな風に名前を言う事なんてないけど、今は暖かい気持ちになれたから、そう口から言葉が出たようだ。 【悠斗】 「楓ちゃんね。俺の事は悠斗って呼んで。それでは又のご来店をお待ちしております」 穏やかな笑顔で悠斗さんはお辞儀をする。私もそれに応えるようにお辞儀をしてお店を出た。 【楓】 (悠斗さん、か。普通にカッコ良かったなぁ。又お店に行ってみよう) 翌日、仕事を終えた私は昨日買ったジャケットを着て職場を出た。 昨日よりは気分が良い。 多分、悠斗さんのお陰だ。 <街並み> 【???】 「楓!」 歩いているところへ急に声を掛けられた。 【楓】 「! 雅章(マサアキ)……!」 声の主は別れた彼氏だった。 【雅章】 「俺が悪かった。やり直してくれないか?」 そう言って私の肩を強く掴む。 【楓】 「やめて! もうあなたとは終わったのよ!」 雅章を振り切ろうとするが、力強く肩を掴まれて身動きが取れない。 【雅章】 「俺が好きなのは楓だけなんだ!」 そのまま勢いで抱き締められそうになる。 でも、そうはならなかった。 【???】 「俺の女に手出しするのやめてくれない?」 【楓】 (この声は……) 「悠斗さん!?」 【悠斗】 「ごめんなー、仕事抜けるの遅くなって」 悠斗さんはヒラヒラと手を振ったかと思うと、雅章の手を掴んで私を解放させてくれた。 【雅章】 「何だ!? あんたは!?」 雅章が凄い形相で悠斗さんを睨む。そんな雅章に対して、悠斗さんは余裕が見えた。 【悠斗】 「俺は聖月悠斗。楓の彼氏だよ」 私の腰を抱き寄せて、さらりと言う。 助け舟を出してくれていると分かりながらも、ほのかに香るコロンの香りと悠斗さんのドアップが、私の心をときめかす。 【楓】 (うわ、演技って分かっててもドキドキする!) 【悠斗】 「あんたにはあんたに相応しい女を探しな」 更にギュッと抱き寄せられ、そっと頬にキスされる。 今、顔が真っ赤だと思う。 【雅章】 「ちっ!」 雅章は舌打ちをして諦めて去って行った。キッとひと睨みあるのが憎々しいが、これで丸く収まったかと思うと安堵の気持ちが強かった。 【楓】 「あの、ありがとうございました」 【悠斗】 「別に。買い出しのついでだし。それにしてもあれが彼氏? 楓ちゃんは男を見る目がないなぁ」 悠斗さんに溜め息をつかれる。 が、問題はそこじゃなくて……。 【楓】 「そろそろ腰から手を放してくれませんか?」 照れながらも言ってみる。 【悠斗】 「ん? ああ、これね。……俺的には、このままベッドでもこうしていたいんだけど?」 腰から背中にかけて、つうっと手を這わせられてゾクリとした。 【楓】 「ひあっ!」 思わず声が出てしまう。 こんな感覚は初めてだ。 【悠斗】 「良い反応するじゃん?」 顔を近付けられるが、何とか悠斗さんを突き放す事が出来た。 【楓】 (悠斗さんって、女性慣れしてる!? そりゃ仕事で慣れてるのかもしれないけど……) 【悠斗】 「ふっ。楓ちゃんってやっぱり可愛いな」 悠斗さんがニンマリと笑い、私に名刺を渡す。 そこには携帯の番号とメルアドがハートマーク付きで書いてあった。 【楓】 「あの?」 【悠斗】 「暇な時に遊ぼうよ。連絡して」 お店と同様に投げキッスをして、悠斗さんは機嫌良く去って行った。 私は火照る頬を抑えて、もらった名刺を鞄に入れた―――